Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
ちょうど階段を上ってきたフシルが、小走りでメオラのほうへ駆け寄ってくるところだった。
「メオラ殿、今から殿下のお部屋へ?」
追いついたフシルの言葉に、メオラは「はい」と頷く。
「一応はルドリア姫付きの侍女なのですから、メオラ殿お一人で城内をうろつくのは危険です。同行しましょう」
「いえ、そんな」
「いいんです。ちょうど暇ですから」
そう言って微笑み、フシルはメオラの隣に並んで歩き出す。
言っても聞かないか、と諦めて、メオラは素直に「ありがとうございます」と頭を下げた。
何を話せばいいだろう。
そう考えて、メオラはふと、そういえばフシルと二人で話すことは一度もなかったな、と思い至る。
それは、二人とも常に主人のそばについていたからで。
今はどちらもいない。エルマも、――リヒターも。
「ときに、メオラ殿」
フシルが唐突に言った。