Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「フシル様、どうしてかしら」
気づけばメオラは、つぶやくような小さな声でそう言っていた。
「どうかされましたか?」
「アルに、帰りたい、はずなのに。……なんだか、離れがたい気もしてしまうんです」
国のしがらみも何も関係なく、笑い声の満ちるアルの野営地へみんなで帰る。
それは、メオラが王城に来てからずっと望んできたことだったはずだ。
それなのに、そのことを考えると、寂しいのだ。
心にぽっかりと穴が開いてしまったような気がしてしまうのだ。
「それは、メオラ殿の大切なものが、アルだけではなくここにもあるからではありませんか?」
答えが返ってくるとは思っていなかった。メオラは驚いてパッと顔を上げ、フシルをまじまじと見つめる。
「メオラ殿の思い描いたアルの野営地に、王城へ来てできてしまった大切なものが、見当たらないからではないでしょうか」
「エルマや兄さんや、アルの皆より大切なものなんて……」