Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-



 でも――できることなら、気づかないままアルへ帰ってしまいたかった。



 そんなメオラの気持ちを見抜いたかのように、フシルは言う。



「伝えたいことがあって、メオラ殿とは一度二人でお話ししたかったんです。今日会えてよかった」



「伝えたいこと……?」



 聞き返すと、フシルは「はい」と頷いた。



「――あなたは望んでいいのだと、お伝えしたかったのです」



 望んでいい。それを、どうしてフシルが言えるのか、メオラは知らない。

その言葉を鵜呑みにしていいものか、メオラは知らない。



 しかしその言葉は、まるで呪文のようにメオラの耳に残った。



「どうして……あっ」



 どうして、メオラの気持ちがわかったのか。

どうして、望んでいいと言えるのか。



 しかしその問いは言葉にならなかった。

それを言葉にする前に、前から小走りでやってきた官吏と肩をぶつけてしまったのだ。



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