Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「すみませんっ、大丈夫でしたか!?」
官吏はメオラに謝り、落ちた書類を拾い集める。
メオラとフシルも慌ててそれを手伝った。
すべて拾い終えると、官吏は相当に急いでいたのか、礼をしてまた走り出す。
それを見送ってから、フシルが「あっ」と声を上げた。
メオラは何事だと顔を上げて、フシルの視線を追う。
メオラの足元を見ているその視線の先には、スカートに隠れて書類が一枚、落ちていた。
とっさに顔を上げても官吏の姿はそこにない。
呼んだところで聞こえないだろう。
仕方ない。
「フシル様、すみませんが、これを代わりにラシェル殿下に届けていただけますか? わたし、これをさきほどの方に届けに行きますので」
普通ならば逆だ。
フシルが書類を届けに行って、メオラがラシェルに食事を運ぶのが正しい。
しかし、今はできることならラシェルの顔を見たくなかった。
それを察してか、フシルは快く引き受けてくれた。