Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「その書類でしたら、さきほどの方を探すよりもカリエンテ様を探したほうがいいかもしれません。カリエンテ様に届ける書類のようですから」
と言うと、フシルはラシェルの食事を持って歩き出す。
その背に礼を言って、メオラもイロの執務室の方へ走り出した。
長い廊下を急ぎ足で進み、イロの執務室へ。
侍女として王城で働いているメオラは、もう完璧に王城内の構造を頭に入れていた。
やがて辿り着いた扉の前で、メオラは息を整えながら、コンコンと扉を叩いた。
返事はない。しばらく待ってみても、返事どころか何の物音もしなかった。
もう一度叩いてもそれは変わらない。
(どうしようかな……。他にイロがいそうなところなんて知らないし)
迷った挙句に、結局他にどうしようもなく、書類を執務室に置いておくことにした。
「失礼いたします……」
聞く者もいないのに小さな声で言って、メオラはそっと執務室の扉を開ける。