Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
まっすぐ机に向かっていき、書類を置いてそのまままっすぐ帰ろうと振り返ったとき。
「……あら?」
視界の端で何かが光って、メオラは足を止めた。
机の隣、サニラの木を植えた鉢植えの土の上に、銀色に光るものがある。
(なにかしら?)
メオラはかがんで、それをつまみ上げる。
そして次の瞬間、驚きに大きく目を見開いた。
それは、銀のボタンだった。
フシルの制服の胸にある刺繍と同じ、フクロウを象った紋様のあるボタンだった。
――リヒターの上着のボタンだった。
瞬間、蘇ったのはもう遠い昔のように感じられる、少し前の記憶。
クランドル領セダから重傷のラシェルと共に王城へ帰ったとき、リヒターは牢にいた。
ラシェルの刺客が剣に塗っていた毒をリヒターが上着のボタンと引き換えに買った疑いを持たれて、流刑になりかけたのだ。
そのときのボタンは、ラシェルが持っている。
リヒターの処遇が決まるまではイロが預かっていたが、ラシェルが目覚めてからはラシェルの手に渡ったのだ。