Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
そのボタンが、なぜ、イロの元にあるのか。
それもまるで、土の下に隠すように。
(そういえば、本当は誰がリヒターのボタンを使って毒を買ったのか、まだわかっていない……)
まさか、と、乾いた声がメオラの喉からこぼれ出た。そのとき。
コツ、と、静かな足音がして、メオラは息を飲んで、振り返った。
そこにいたのは――。
「イロ、様……」
いつもの憮然とした様子で、イロは立っていた。
その冷たい目がメオラの手の中で光る銀のボタンに目を留め、数度、まばたきをする。
そして小さなため息をつくと、
「見てしまったか」
と、イロは言った。
見て、「しまった」。
その言葉は、メオラの考えが的中したことを絶望的なまでにはっきりと示していた。
一歩近づいてくるイロに、反射的にメオラも一歩下がろうとして、しかし机にぶつかってしまってできない。
「……なぜ、ですか」
問いかける声は震えていた。