Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-



「なぜ、あなたがこれを持っているのですか。リヒターの仕業に見せかけてラシェルを襲ったのは、王妃じゃなくてあなただったのですか」



 それは、リヒターを無実の罪で流刑にするためなのか、それとも、ラシェルを殺すためなのか。



「……どちらでもよかった」



 イロは少しも表情を崩さず、そう言った。



「二人の王子をめぐって国が割れていた。

王位を継ぐのをどちらかに絞る必要があった。

お二方とも聡明であらせられる。どちらかが残れば、残った方に次の王となってもらえればそれでよかった」



 つまり、あのままラシェルが死んでいたらそれもよし、次の王はリヒターとなる。


ラシェルが生きて戻れば、リヒターを流刑にして王都から遠ざけ、ラシェルが王位を継ぐ。


どう転んでも構わなかった、と。



「すべては国を思ってしたことだって、そう言いたいの?」



 メオラはもうすぐ目の前に立っているイロを睨みつける。

イロの手が腰に下げた剣の柄に触れているのには、気づいていた。


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