Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「娘、おまえにはわからないだろう。国を持たないおまえには」
ゆっくりと剣を抜きながら、イロは言った。
「そうね、わからないわ。だってどう考えてもわたしは、そんなことしたって、二人とも幸せになれないって考えてしまうもの……!」
メオラは震えそうになる身体を気力で抑え、渾身の力でイロの膝に蹴りを入れる。
「うっ……」
小さなうめき声を上げて、イロがよろめく。
その隙にメオラは扉の方へ走り出した。
逃げてラシェルの元へ行かなければ。
このことを伝えなければ。
ようやく扉に手が届きそうになったとき、しかしメオラはその足を止めた。
追いついたイロに腕を掴まれたのだ。
そのまま強い力で腕を引かれ、それから何をされたかわからないままに、メオラはいつの間にか床にうつ伏せに倒されていた。
押さえつけるイロの力に勝てるわけもなく、腕と肩の痛みに顔を歪めながら、メオラは振り返ってイロを見る。