Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-



 イロの持つ剣の輝きに、血の気が引いていくのが自分でもわかる。

もう、どう足掻いても逃げられないだろう。

だが、メオラは気丈にイロを睨みつけた。



 エルマとラシェルの顔が脳裏に浮かんだ。


――そうだ。怯えて泣くだけの小娘だと思われてなるものか。

ここで死んでも、あの二人に恥じることのないように。



「あなたは国を思ってこんなことをしたんでしょうけど、国は、人がいなくちゃ立ち行かない。どんな国だって、民あっての国でしょう? そこに住む民の思いが国を動かしているんだわ」



「放浪の民の言い分にしてはまともだな、娘。その通り。民の思いが二人の王子のせいで分かれていては、国が立ち行かない」



「なら、その『民』に、ラシェルとリヒターも数に入れてはどうしていけないのよ!」



 その言葉に、イロがわずかに怯んだ。



「国のためと言うけれど、それで結局どうなったの。リヒターは死んだ。ラシェルは弟と右腕を失った。フシルは愛する人を。……どうして他の道を行くことができなかったの」



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