Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
門衛に中へ入れてもらって通されたのは、ちょうど広場に面して広いバルコニーのある部屋だった。
ラグが部屋に入ると、中で待っていた三人が同時に振り返った。
そのうち二人は同じ顔だが、エルマがどちらなのかは雰囲気の違いでわかる。
「ラグ!」
ルドリアのアプリコット色のドレスに身を包んだエルマが駆け寄ろうとして、ドレスの裾を踏んでよろけた。
転びはしなかったが、体勢を立て直したエルマはほんのすこしだけ忌々しそうな顔をする。
「嫌そうだね」
と、ラグは笑った。
「動きにくくてかなわん。いざという時は任せたからな」
「はいはい。でも、似合ってるよ」
そう言うと、エルマの顔がぱっと赤く染まった。
林檎みたいだ、と思って、そういえばエルマの名前はウィオンの言葉で林檎という意味だったか、と思い至る。
「おまえ、最近いろいろと憚らなくなったな……」
赤い顔を隠すように俯いて、エルマは言った。
恥ずかしいことを言うようになった、と。