Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「街の人たちは、もうほとんど広場に集まってるよ。テオとマリも準備はできてる」
ラグが言うと、エルマは頷いた。
その顔は笑ってはいるけれども、緊張の色がよぎる。
「――始めよう」
静かな声で、エルマが宣言した。
その声を合図に、ソファに座っていたディネロとルドリアが立ち上がる。
エルマを先頭に、三人は声もなくバルコニーへ歩いていく。
ラグもマントを脱ぎ、その後に続いた。
バルコニーに現れた四人を、民衆の沈黙が迎える。“平和を壊した偽ルドリア”を前に、群衆のまとう空気が硬くなったのを肌で感じて、ルドリアとディネロの顔がこわばった。
――民が望んでいるのは二つ。納得のいく説明と、平和だ。
すぐ目の前に立つエルマの緑を見つめ、ラグは昨夜聞いたエルマの言葉を思い出した。
――平和を望んではいるが、ここで戦争はしないと宣言しても手放しに喜べないほどには、両国の民の確執は根深い。結局、こんな騒ぎになってしまった責を互いに求め、不和が生じてしまう。