Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「けれど、サリアナはもう手出しできない」
一度斬り伏せられてしまったのだ。
これ以上、民衆の前で無闇に矢を射ることもできまい。
そう言うと、エルマは大きく息を吸う。
「……まずは、シュタイン・ルイーネ両国の民に謝らなければならないことがあります」
凛と通る声が、広場に響いた。
その言葉が、エルマが昨夜語った、ルドリアとディネロへの作戦開始の合図だ。
――シュタインもルイーネも、どちらにも平等に責があり、かつどちらにも責がないように、偽ルドリアがシュタインにいた理由を作り変える。
「我らルイーネ王家とシュタイン王子殿下の内密の合意によって、両国にいらぬ混乱を招いてしまったこと、わたくしルイーネ第二王女エルマが代表して、両国の民に深くお詫びします」
エルマが言って、頭を下げた。ルドリアとディネロ、ラグも続く。