Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
しん、と、その場が静まり返った。
喜びの色は戸惑いに変わり、誰もが不安げに王を見上げる。
「和平を望むのは、何のためだと思う」
ざわざわと、困惑の声が広がっていく。
王の唐突な言葉に、誰も、何も返すことができなかった。
「それは、己の国と、己の国に住む家族や友人、恋人を失いたくないため。大切なものたちと共に生きるため。違うか」
和平を望む。その願いの根本は、誰であれ皆、そこにある。
そうだろう、と言うディネロに、頷くものが一人、二人と増えていく。
「そう思えばこそ、私は私の国にいる私の母や妹や、我が民を守るために、両国に和平を望む。そしてシュタイン王子も、それについては賛同している」
言って、ディネロはラグに目配せをした。
それを合図に、ラグは用意していた書状を民に掲げてみせた。
「ここに、シュタイン第一王子であり次期シュタイン王となるラシェル殿下からの親書がある。殿下はこう仰られた」