Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「おとなしく牢へ入ります。私が私利私欲のためにリヒター王子を陥れたわけではない、という証明のために」
イロの言葉に、ラシェルはどこか寂しそうな笑みを浮かべた。
「そんなもの、証明などしなくてもわかるさ」
なあ、イロ。
そう呼びかけるラシェルの声は暖かい。
まるで、親しい友に呼びかけるように。
「おまえが国のためにしたことなんて、わかっている。おまえはいつだって正しかった。……非情になれずにいた甘い俺を、いつだって支えてくれた」
ラシェルの言葉を、イロはうつむいて聞いていた、――が。
「今朝、父上から王命が下った。近いうち、正式な公表があるが」
唐突なその言葉に、イロは顔を上げた。その目は驚愕に見開かれている。
「まさか」
「ああ。――俺に王冠を譲る、と」
まるでなんでもないことのように、普段と変わらぬ口調で告げられたその事実に、メオラも大きく目を見張る。
以前、ラシェルに「あなたは良い王になる」と言ったことがあった。
彼が玉座に着くことを、そのときは遠い未来のように思っていたのに。