Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「父上は……国王陛下は、老齢の自分に代わってよく国を治めよ、と仰られた。戴冠式は来月、執り行う」
「それは……まことに喜ばしいことで」
そう言ったイロの言葉に、嘘偽りなはないのだろう。
どこかまぶしそうなその表情を見ていればわかる。だからこそ、ラシェルは哀しい笑みを浮かべて言う。
「俺が王となったその後も、できることならおまえに支えてもらいたかった」
「殿下……」
「リヒターが死んだのはおまえのせいじゃない。おまえはただ、リヒターに嫌疑をかけて流刑にし、王城から引き離そうとしただけだ。あいつが死んだのは、まぎれもなくあいつ自身の罪のためだ。……けれど」
穏やかなその声ににじむのは、静かな諦念。
「俺はそのすべてを理解していても、おまえを許すことはできない。……イロ」
ラシェルが名を呼ぶと、イロは「はい」と静かに応えた。
どんな処分も受ける覚悟は、とっくにできているのだろう。
「宰相の位を剥奪し、蟄居を命じる」