Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-



 フシル、捕らえろ。

ラシェルがそう言うと、後ろから「はい」と応える声がした。

メオラが驚いて振り返ると、いつからそこにいたのか、フシルとカルが扉のわきに控えていた。



 フシルとカルが抵抗しないイロを連れて部屋を出て行くと、ラシェルとメオラだけが部屋に残された。



「……怪我はないか」



 へたりこんだままのメオラの前にしゃがみこんで、ラシェルが尋ねる。



「ええ。……来てくれてありがとう」



 メオラは言って、顔を覗き込んでくるラシェルから目を逸らした。


イロの騒動がある前に考えていたことを思い出して、なんとなく目を合わせられなくなったのだ。



「ラシェルは、体は大丈夫なの? たぶん急いで来てくれたんだろうけど、気分はどう?」



「大丈夫だ。まだ左右のバランスが取りづらいが、体調はなんともない」



 応えるラシェルの顔は、なぜか険しい。

居心地が悪くて、メオラは立ち上がろうとした。

このままここにいては余計なことを口走りそうだった。


 だが。



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