Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「え」
立ち上がろうとしたメオラの腕を、ぐい、と強く引いて、ラシェルがメオラを引き寄せた。
そしてそのまま左腕でメオラを抱きしめる。
「ちょ、ちょっと!? ラシェル?」
「……間に合ってよかった」
ほとんど吐息のように呟かれたその声を聞いて、メオラは黙り込んだ。
「まったく、肝が冷えたぞ」
「……うん、ごめん」
「あの状況で相手を挑発するか、普通」
「それは、まあ……腹が立っていたんだもの」
「それでも、あまり無茶をしないでくれ。寿命が縮んだぞ」
「うん、ごめん」
素直に謝るメオラの頭を、ラシェルは優しく撫でる。
「エルマが帰ってきたら、せっかく約束通りアルに帰してやれるんだ。その前に死なれたらかなわん」
やめて。
とっさにそう言いそうになって、メオラは唇を噛んだ。
胸が刺されたように痛む。
エルマは、予定では今日にでも帰ってくるはずだ。
そうすれば、エルマとカルと、ラグと共に帰るのだろうか――アルに。