Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-



「え」



 立ち上がろうとしたメオラの腕を、ぐい、と強く引いて、ラシェルがメオラを引き寄せた。


そしてそのまま左腕でメオラを抱きしめる。



「ちょ、ちょっと!? ラシェル?」



「……間に合ってよかった」



 ほとんど吐息のように呟かれたその声を聞いて、メオラは黙り込んだ。



「まったく、肝が冷えたぞ」


「……うん、ごめん」


「あの状況で相手を挑発するか、普通」


「それは、まあ……腹が立っていたんだもの」


「それでも、あまり無茶をしないでくれ。寿命が縮んだぞ」


「うん、ごめん」



 素直に謝るメオラの頭を、ラシェルは優しく撫でる。



「エルマが帰ってきたら、せっかく約束通りアルに帰してやれるんだ。その前に死なれたらかなわん」



 やめて。



 とっさにそう言いそうになって、メオラは唇を噛んだ。

胸が刺されたように痛む。



 エルマは、予定では今日にでも帰ってくるはずだ。


そうすれば、エルマとカルと、ラグと共に帰るのだろうか――アルに。


< 292 / 309 >

この作品をシェア

pagetop