Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
アルへ、帰りたい。
それはずっと望んでいたはずのことで、今だって望んでいることだ。
けれど、それを考えるとこんなに胸が痛い。
その理由もわかっている。
わかっているのに――いや、わかっているからこそ、彼の腕を、振りほどくことができない。
「寂しく、ない?」
痛みをこらえてこぼれたのは、そんな言葉だった。
「エルマやカルや、わたしが去って、リヒターもいなくなってしまって、リーラ様も遠いウィオンにいて、イロだって、もう……。寂しくはない?」
右腕を失い、弟を失い、臣下を失い、もうこの王宮で、損得省みずにラシェル個人に味方する者は、フシルとレガロだけだ。
「心細くは、ない?」
馬鹿。と、メオラは心中で自分をなじった。
寂しい、などと。心細いなどと彼が言ったとして、それで自分に何が出来るというのか。
エルマのように賢くもなければ、カルのように強くもない自分に。
ごめんなさい、今のは忘れて。
そう言おうとしたとき、メオラを抱きしめる左腕に力がこもった。
「心細いと、言ってもいいのか」