Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「あたしはまだしばらく、ここに残るわ。いつまでかは、あなたが決めればいい」
必要でなくなれば、あるいは、限界が来れば、いつでも追い出せばいい。
それくらいの覚悟はできている。
そう考えて、メオラは小さく笑った。
アルで暮らしていたこれまでの日々で、何度か恋について考えたことがある。
それは甘く、ときに酸っぱく、幸せで、喜びに満ちたものだと思っていた。
エルマと兄のように、何も言わずとも通じ合って、互いに絶対的な信頼が置ける、そんな唯一無二の誰かと共に生きる日が自分にも来るのだろうかと、漠然と夢見ていた。
けれど。
「……ありがとう、メオラ」
ラシェルがかすれた声で言う。
ひどく不恰好だ、と、メオラは苦笑した。
アルの旅の行く先で時たま耳にするうわさ話やおとぎ話のような、情熱的で夢想的な恋の話とは違う。
不恰好で、不器用で、苦い。
それでも共にありたいと願ってしまう、厄介なもの。
――でも、悪くない。