Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
そんなラシェルを見てリヒターはもう一度微笑むと、「さてと」と言って扉の方へ歩き出した。
「じゃあ僕は、そのエルマとやらを見に行こうかな。
ついでにアルへ一度戻るエルマについて行こう。
逃げないとも限らないからね。イロ、案内してよ」
呼ばれたイロが「はい」と頷いて、早足でリヒターを追いかけた。
二人は扉の前でラシェルに一礼すると、連れ立って出て行った。
扉の外に誰もいなかったところを見ると、リヒターはすでに兵を元の配置に戻したようだ。
窓を開けて、いつも射手を配置するあたりを睨んでみたが、それらしき者はいなかった。
「わかっているさ」
窓の外をぼんやりと見ながら、ラシェルは呟いた。
わかっている。
リヒターの「優しい」は、暗に「甘い」と言っているのだ。
リヒターやイロがやったことは非道ではあるが、国のためには正しいことだ。
自分が非道となじる権利はないし、そんなのはきれいごとだ。
よくわかっている。
窓の外、城下には商人たちでごった返し、各々が市の準備を整えている。
見ているだけで喧騒が聞こえそうな賑やかな光景を眺めながら、ラシェルは小さなため息をついた。