Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「一番最初に気づいたのは、フシルが言うにはたぶんリヒターだ」
「あー、なんかもうやだ……」
自分だけがラシェルへの気持ちに気づかないままでいたことを知って、メオラは頬を赤く染める。
「まあ、幸せになれよ。王妃様」
カルが茶化すと。
「気が早いわよ」と、メオラは怒ったように言うが、その顔は赤い。
「反対は目に見えているもの。どこまでやれるかわからないから、もしかしたらアルに戻ってくるかもしれないしね」
「そのときはもちろん歓迎するけど、そうならないことを祈るよ」
エルマの言葉に、ラグが頷く。
「まさか俺の妹が王妃候補になるなんてね」
「おとぎ話みたいだな」
エルマが言って、思い出したように冷めたお茶を飲み干した。
空になったエルマのカップを見て、メオラは窓の外に目を向ける。
出立のときが近づいていた。
「兄さん、やけにあっさりしてるけど、寂しくないの?」
怒ったような顔を作って、メオラは言う。そんなわけがないと、わかってはいた。