Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
メオラがわかっていることを、ラグもわかっている。
苦笑して、「馬鹿だな」と、メオラの額をかるく弾いた。
「そりゃあもちろん寂しいけど、でも、……共にありたい人がいるなら、離さないことだ」
兄の声はどこまでも柔らかく、優しかった。
兄さんはいつもそう。と、メオラは心中で呟いた。
なにがあったって、わたしの前では笑っているんだから、と。
「それは、兄さんの経験から言ってるの?」
ほんのすこしだけ、鼻の奥がツンとした。
それを隠すように、メオラはわざと明るい声でラグを茶化してみる。
きっとそんな意図もなにもかも、兄とエルマにはお見通しなのだろうけれど。
ラグは虚を突かれたように息を詰まらせ、顔を赤く染める。
「……えっと、まあ、うん。そうだね」
しどろもどろに答えながら、ラグはごまかすように焼き菓子に手を伸ばす。
するとその横からカルが手を伸ばして、焼き菓子をつかんで口の中に放り込んだ。最後の一つだった。