Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「そうですよ。直接話すのはこれが初めてなのに、こんなことを言うのもなんですが」
「何か」
「ま、ここは兄君らしく。……メオラを泣かせたら、取り返しに来ますから」
薄く笑って言ったラグに、ラシェルは真面目な顔で頷いた。
「努力しましょう」
その、ラシェルらしい答えに、エルマとカルが同時に吹き出した。
フシルも笑みをこらえるように口元を隠し、レガロとラグは苦笑する。
メオラはというと、赤い顔をエルマの肩にうずめて隠していた。
ひとしきり笑って、エルマはそっと腕をほどいた。
「出立の準備はもうできたのか」と尋ねるラシェルに、手の甲で涙をぬぐって、「ああ」と答える。
全員の顔を見まわし、胸元に揺れる首飾りをぎゅっと握り締める。
そうしながら、ラグにもらった言葉を思い出した。
貴方の道に追い風と一輪の花を。
追い風は、道行く者の背を押し、進むための力となるもの。
一輪の花は、道行く者の心を癒し援けるもの。
それは、道行く者への激励の言葉。
この出会いと別れと、そしてこれからも共にある者たちが、エルマにとっての追い風と花となるだろう。
「――行こうか」
エルマは最後に一度微笑み、今度こそその手で扉を開けた。