Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
先を行くエルマが言った。
すると、それまで面倒そうにしていたカルが、「お、本当か!」と、目を輝かせて走り出す。
なんだかんだ言ってはしゃいでるじゃないか、と苦笑しながら、ラグも後から追いかけた。
見晴らしのいい丘の上。
城が見えたんだとラグが話して、行ってみたいとエルマが言い出した。
三日後から開かれる夏市の準備に追われて出発が遅くなり、三人がやっと丘の上に着いたときには、もう夕方になっていた。
見上げた空は薄赤く染まり始め、雲のふちが金色に光っている。
西の薄紅と東の浅縹が淡く溶け合い、薄い紫がにじむ。
その下に、一年ぶりに見るシュタイン王城が小さく見えた。
「……美しいな」
王城の白い壁が夕陽に染まるその光景を眺め、エルマは呟いた。
あそこにいる友もこの夕陽を見ているだろうか、と思いを馳せながら。
「もう、あれから五年経つんだな」
この五年の間に、アルの皆と共に大陸中いろいろなところを旅した。
それでも毎年夏になると必ずシュタインに来て、メオラやラシェルに会いに行った。――そして、今年もまた夏が来た。