Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「緑の頭の君がエルマだね? で、そこのお嬢さんがメオラだ。こちらのお兄さんは?」
問われたエルマはカルを仰ぎ見る。
苦い顔をしたカルは、ぼそりと「カル」とだけ答えた。
「カル、ね。『雪』か。エルマは『林檎』だろう?」
男がエルマとカルの名前の意味をさらりと言い当てて、二人は目を丸くした。
「どうしてわかったのです?」
エルマが訊いた。
「なんのことはない。このシュタインからまっすぐ東へ海を渡ると、ウィオン帝国がある」
「ウィオン……」
聞いたことがある。
大陸中を旅するアルの民が、まだ行ったことのない遥かデニズ海の向こうの島国。
このヴェルフェリア大陸にも多くの信者を持つサザラ教の聖地で、ヴェルフェリア以外に三つの大陸に囲まれ、それこそ世界中の異文化が混在する国。
エルマが一度は行ってみたいと願う国だ。
「『エルマ』や『カル』は、そのウィオンの古い言葉だよ。
もうウィオンの中でもわずかな村にしか伝わっていない。
僕はたまたまそれを知っていただけだよ。
だけど、『メオラ』がどういう意味なのかは、残念ながら知らないな。……知っているかい?」
男がメオラに尋ねた。
メオラは首を振った。
「わたしは故郷を知りませんので」
そう言ったメオラの目は、どこか悲しげだ。