Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
旅を生き、旅に死ぬ。
アルの長になったときから、そう決めていた。
王城の奥などで死んでなるものか。
必ず、アルのもとへ帰る。
そのためにならどんなことだってしてやる。
決意を新たにして、エルマは姿勢を正した。
正しい跪礼の形に、だ。
「同じ王族」のリヒターに跪くという小さな反逆は、エルマがアルの民としてリヒターに見せる、最後の小さな抵抗だ。
(わたしは、王城に入る。王城で、ルドリアとして生きる)
アルの民として王城に入り、ルドリアを演じ切ろう。
誰にも偽物と悟られないように。
途中で隙を見て逃げ出すようなことはしない。
アルの民の利益と引き換えに受け取った仕事を全うして、ルドリア役を演じる必要のなくなったとき、誰に恥じることもなく、対等な契約の結果として、胸を張ってアルに帰る。
王家が自分を口封じに殺そうというのなら、なにがなんでもしぶとく生きて、なにがなんでもアルに帰ることを認めさせてやる。
自分の卑怯も、相手の卑怯も、許さない。
「エルマ、先代と事情説明の席を設けてくれないか?」
そんなエルマの決心など何も知らず、リヒターはにこやかに言う。
エルマも立ち上がると、リヒターに微笑みを返して、「いたしましょう」と言うと、そばにいたラグに「ラグ、天幕を」と、指示を出した。
ラグは「はい」と返事をして、数人の男を連れて走り去っていった。