Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「へぇ、あんたが。嬉しいねぇ…最後に、会えるなんて。なぁあんたに、頼みたいことが、あるんだ」
「なんだ」
「この赤ん坊を…エルマを、育ててやっちゃあ、くれねぇか。捨て子、なんだよ」
男の体力は限界だった。
声はかすれ、目はどんなに力をいれても開かない。
しかし男は、どうしてもエルマを生き延びさせてやりたかった。
「…エルマか。名は、おまえがつけたのか?」
男はかすかに頷いた。
「なるほど。『エルマ』か。たしかに『林檎』みたいな、真っ赤で丸い、大きな目だ」
男はもう一度頷き、右の頬をひきつらせて笑った。
男の故郷の言葉を――「エルマ」という言葉の意味を、カームが知っていたことが、ひどく男を安心させた。
かすれた声で「頼んだ」とつぶやき、男はそのまま息絶えた。
その様子を見届けて、カームは赤ん坊を抱いて立ち上がった。
「誰か、墓を作れ。ここで穴を掘るのは厳しいから、せめて墓標だけでも。……エルマは、俺が育てよう」