Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「天幕ができたら、中にはメオラもついてきなさい。カルとラグは天幕周辺に誰も近づかないように見張りなさい。
他のものはそれぞれ、いつものように自由にしていて構わない。ただし、天幕には近づかないこと」
アルの皆にエルマがそう指示すると、リヒターはエルマにだけ聞こえるように、小声で言った。
「あの若者は、アルの中ではどういう立ち位置にいるのかな?」
リヒターの視線はラグを指している。エルマが戸惑いつつも、「ラグのことですか?」と確認をすると、リヒターは頷いた。
だが、エルマはリヒターが具体的に何を訊きたいのかがわからず、首を傾げた。
それを見て、リヒターが付け足して言った。
「君がずいぶんと彼を信頼しているようだったから、何かこう、長の補佐役だとか、そういう役職にあるのかと思ってね」
それを聞いて、エルマは納得した。
確かに、野営地に着いてからというもの、エルマはラグに何かを任せることが多かった。
契約書を読ませたこと然り、天幕張り然り、だ。
「アルの民の中では、役職のようなものはとくにはありません」
エルマは答えた。