Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
長としてのエルマと、娘としてのエルマと。
彼は、エルマが望むほうをとった。
「実は今回、この話をあなたたちにしたのには理由がある」
リヒターが、笑みを顔に貼り付けて言う。
「僕らシュタイン王家は、エルマにアルの営業権と免税特権を与えて、その代わりにルドリアになってもらうと取引をしたけど、彼女がそれを承諾しなければ殺すと、脅しもした」
その言葉に、カームとラグは息を呑む。それは、つまり。
「俺たちにも、何かさせるつもりか? 殺すと脅して?」
「そういうことだね」
にこやかに答えたリヒターを、メオラは睨みつける。
「本当に、どこまでも、汚いやり方をするのね」
「それが僕の役目だからね。……カーム殿とラグ殿には、ルドリア探しを手伝って貰いたい。断ればアルの一族を殲滅するくらいのことはできるし、もちろん口外すれば容赦はしないけど、どうする?」
引き受ける以外の選択肢など、最初から残されていない。
「いいだろう」
カームが言って、ラグが頷いた。
「それで、エルマが王城へ行った後、長はどうする。おまえが決めろ、エルマ」
「それなんですが……」
エルマは言いながら、ラグのほうへ向き直った。
「ラグ、あなたに任せたい。次の長に、なってくれるか」
天幕に呼ばれたときから、この展開は読んでいたのだろう。
ラグは少し悲しげな目をしたが、とくに驚いたふうでもなく、サッと居住まいを正した。
「謹んで、長代理を引き受けさせてもらいます」
エルマは頷きかけて、だがすぐにきょとんとした顔になった。
「ちょっと待て、代理って……」
「代理として、長の帰ってくるアルの一族を守ります」
ラグは決然とした態度で言う。
その眼が、夏空の濃い蒼が、まっすぐにエルマを見る。
「お帰りを、お待ちしています、我らが長」