Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「ラグ、その馬は?」
馬が必要になる予定はないはずだ。エルマがそう言うと、
「ああ、これは、……もうじき出てくると思うんですけど……」
と言いながら、ラグは振り返った。視線の先には一台の荷馬車がある。
エルマもラグにならって荷馬車を見ていると、しばらくして、中から長身の男が出てきた。
背に麻布で包んだ荷と、肩に短槍を担いで近づいてくる黒髪の青年は、そういえば先ほどから姿が見えなかったカルだった。
「俺も一緒に行くから」
カルはきょとんとしているエルマの前まで来ると、豪然と言い放った。
「え、けど……」
メオラが戸惑ったように、背後の馬車をちらりと見た。
その仕草を見たカルは、すかさず「リヒターの許可なら取った」と言った。
「事情も全部聞いた。だからもう、エルマがだめだと言っても、俺は王城へ行くしかない」
それを聞いても絶句して何も言えないでいるエルマに、今度はラグが、
「ついて行かせてやってくださいよ、族長」
と、口添えをした。