Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
アルの民にはいくつか、昔から伝わる特有の儀式がある。
その形に、エルマは見覚えがあった。
それは、アルの民が少し長い間、何か危険な仕事などにより一時的にアルの元を離れるときの、激励の儀式だ。
昔、養父カームが大きな隊商の護衛を任されたときに、エルマもそうしてカームを送った。
去る者の安全を祈り、その者の活躍と、無事の帰還を願う儀式だ。
「武運を!」
ラグの怒鳴る声がした。そして、皆一斉に後に続く。
「「武運を!」」
その声は森を震わすほど大きく、遠ざかるエルマの耳にもうるさいくらいに響いた。
エルマは涙が溢れそうになるのを感じて、慌てて堪えた。
ふと隣を見ると、エルマと同じように馬車から身を乗り出しているメオラは、すでに涙で顔がぐちゃぐちゃになっていた。
森の木々がアルの仲間たちの姿を隠して見えなくなるまで、エルマはずっと彼らを見ていた。