Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-


 ヴェルフェリア大陸の西の果てにアスタム王国という火薬の名産国があると、エルマの教育係についたレガロに教わったのは、つい二日前のことだ。


王城に来てからの十日間、エルマは姫としての言葉遣いや立ち居振る舞い、必要な言語や大陸各国の地理歴史を、ひたすら勉強していた。



 レガロ・シジャは三十代程度の若々しい容貌ながら、ラシェルの教育係でもあるようで、驚くほど博識だった。


薄金の長い髪と白い肌が優男じみた印象を与えるが、力は意外に強いようで、毎日大量の書物を軽々と抱えてエルマの部屋へ来る。

大変だから置いていけばいいのに、とエルマが提案すると、「王女様のお部屋に私の私物を置いていくわけにはまいりません。」と、穏やかに笑って固辞された。


勉強を教えるときはエルマをエルマとして扱うレガロだが、それ以外の時には彼はエルマをルドリアとして扱う。

その線引きと切り替えは鮮やかなもので、エルマにとってはレガロ自身が、王城の内での正しい振舞い方の見本だった。



「エルマはのみこみが早いと、レガロが言っていたぞ」


 ラシェルは言った。



「言語や大陸諸国の地理についても、さすがはアルの民というべきか、ある程度の知識はあるようだし、言葉遣いや振舞いも、もともとそれなりに整っているから、教える側としては楽なものだと言っていた」



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