Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
それは嬉しい評価だった。
エルマの言葉や振舞いにあまり乱れがないのは、カームの努力によるところが大きかったからだ。
「王族への接し方は、父に教わりました。賤しい流民と思われることの多いアルの民であるからこそ、品のある振舞いをしなくてはならないと考えていたので」
言いながら、エルマは窓の外、遠く地平の先を見やった。
シュロスの城壁から伸びるルタ街道の、その先にあるセナの森に、アルの民の皆がいる。カームはどうしているだろうか。
ラグはきっとこのシュロスとセナの森を行ったり来たりして、せわしなく駆け回っているだろう。
その様子を思い浮かべて、ひどく懐かしいと感じた。
これまで長くとも二日程度しかアルから離れたことのないエルマにとって、十日はあまりにも長く感じられた。
エルマは深く息を吸って、アルのことを思って沈みかけていた気分を切り替えると、ちょうどそのとき、コンコンと扉を叩く音が、寝室に響いた。
ほんのすこしだけ、エルマは顔を強張らせて、「どなた?」と誰何した。
この十日間で、ルドリアとして王城の者に接する機会はそれなりにあったが、いっこうに慣れなかった。
「失礼、」と、扉の向こうから聞き慣れない男の声がした。
「殿下がそちらにいらっしゃいませんか?」