Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
エルマとリヒターがそんなやり取りをしていると、リーラは顔を真っ赤にして抗議した。
「ちょっと兄様!? 人聞きの悪い言い方をしないでいただける?あたくしはただ、美しいものが好きで、それを絵に描くのが好きなだけですわ!
だから、美しいものなら女性でなくても好きよ。もちろん、リヒター兄様やラシェル兄様だって!」
リーラがそう言ったとき、堪えかねたように、メオラが吹き出した。
エルマ以外の者が部屋にいるときには侍女の分をわきまえて、いつも一言も話さずに気配を殺して立っているメオラがそれを崩したことに、エルマはすこしだけ驚いた。
そのエルマの表情に気づいてか、メオラは慌てて笑いを引っ込めた。
「失礼しました、笑ったりして。仲のよろしいご兄妹だと、思ったもので」
すこし恥じ入ったように言うメオラに、「そんなのいいのよ」と、リーラは気安く笑った。
「むしろ、笑ってくれて嬉しかったわ。あたくし、あなたたちとは仲良くしたいもの」
そう言って、リーラは右手をエルマに、左手をメオラに差し出した。二人ともおずおずとその手を握る。
「こちらこそ……」
よろしくお願いします、と言おうとして、エルマはふと、ついさっきリーラが敬語も敬称もいらないと言っていたのを思い出した。
「よろしく、リーラ」
続いてメオラが、照れくさそうに「よろしくお願いします」と言って、頭を下げた。