Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
そして現在。
南陽の鐘はつい先ほど鳴った。
窓越しに見える花は二輪。
――つまりは、エルマは無事だ。
エルマとメオラにカルが加わって、ラグの大切な人が三人も城へ行ってしまってから十日が経った。
たった十日で彼らの身になにか起こるとは思えないが、それでも無事の証を目の当たりにして、ラグはほっと胸をなでおろした。
すると、その様子を見ていたテオがラグの隣に来て、ミレイに聞こえないように小声で、
「族長も、メオラもカルも、元気っすかね」
と言って、王城を見上げた。
見上げた先がちょうどエルマの部屋の窓だと、テオは知らない。
メオラの箝口令もあるので、そのことはカームにしか話していないのだ。
ラグはそれをすこし後ろめたく感じながら、
「元気さ、きっと。エルマもカルも丈夫だし、二人がいればメオラも大丈夫だろうし」
と言った。
「ですよね。カルなんかあいつ、十年前アルに入ってきたときから風邪ひいたの見たことねーし」
「なんとかは風邪を引かないからね」
「ラグさんひどいっすね」
テオはひとしきり笑うと、ミレイに呼ばれて店に戻っていった。
どうやら護衛の仕事だけでなく、店の手伝いもしているようだ。
テオが去ってからも、ラグはしばらくエルマの部屋の窓を見上げ続けた。
エルマが顔を覗かせはしないかと、ほんのすこしだけ期待しながら。