Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「族長、お疲れさんでした。どうですか、獲物は」
「ラグ、ただいま。みんなにはすまないけど、長いことかかったわりには、一匹しか捕らえられなかった」
その「みんな」はすでにカルのまわりに集まり、すげーだのでけーだのと、牡鹿に興味津々だ。
野営地の騒ぎ聞きつけて、野営地にあるなかで一番大きな荷馬車から慌てて出てきたのは、
くせのある栗色の長い髪をゆるい三つ編みにして右肩に垂らした、エルマと年の近い少女だ。
名はメオラ。ラグの妹だ。
「エルマ! 遅いから心配した」
頬を上気させて言うメオラに、エルマは微笑んだ。
「ごめん。なかなか獲物が現れなくて」
メオラがエルマの背後に立つカルを見た。
正確には、その肩に担がれた牡鹿を。そして兄と同じ夏空色の目を丸くして、「大きいのね」とため息混じりに言った。
「調理はまかせて。角はとっておくのよね?」
エルマは頷いて、背後のカルに言う。
「角を切り離して、洗っておいて」
「了解」
頷いて、カルは獲物を捌く道具をとりに荷馬車へ向かった。
その後をメオラもついていく。