Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「ところで、ルドリア様。リヒター王子からお聞きしました」
フシルが唐突に切り出した。訝しげな顔で、エルマは「なにを?」と尋ねる。
すると、フシルの口から信じられない言葉が出てきた。
「ルドリア様は本名をエルマといい、もとはアルの民の長なのだとか」
口に含んだ茶を吹き出しかけて、エルマはすんでのところで飲み下した。なんとかむせずにすんで、エルマはまじまじとフシルの顔を見る。
「口外は決してしませんから、ご安心を。一度お会いしたいと思っておりました、我が長」
「我が長……? まさか、アルの民の出なのか!?」
エルマが驚愕を露わに問うと、フシルは静かに頷いた。
「はい。エルマ様は、ご自分がカーム殿に拾われたときのことを、なにか聞いていますか?」
「ああ、たしか、戦場に捨てられていたのだと。そこで死の間際にあった兵士がわたしを見つけて名前をつけた後、そこを通りかかったアルに託していったと」
「はい。その兵士を最初に見つけたのが、実はわたしなのです」
「そうだったのか……」
たしか、カームから聞いたことがあった。
エルマが物心つく前、アルにはエルマと同じ緑の髪の女の子がいたと。
今はどこでどうしてるだろうなあ、と、カームは寂しげに言っていたが、その彼女とこんなところで出会えるとは。