Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
意外な答えだった。
エルマはてっきり、フシルが勝ったのだと思っていたのだ。
なにしろ彼女は、二十歳で近衛隊副隊長になるほどの実力者だ。
「わたしも、まさか自分が負けるなどとは思っていなくて、当時は悔しくて悔しくて。しかしリヒター王子はそのとき、おまえはなかなか筋がいいと言って、わたしを近衛隊に誘ってくださったのです。
それからはリヒター王子に勝ちたい一心で剣の腕を磨き、十八歳で副隊長に任命されました」
「十八? それはすごいな」
フシルは「恐れ入ります」と微笑むと、「それよりわたし、わたしの半生などよりも、あなたに伝えたいことがあります」と言った。
急に表情の引き締まったフシルに驚きながら、エルマは「なに?」と尋ねる。
するとフシルは厳しい顔をして、「気をつけてください」と、囁くように言う。
「今、王城の中で不穏な動きが起きています。いまだ目立った動きはありませんが、今後それが活発になると、エルマ様に魔手が伸びないとも限りません」
空気が急に重くなったように感じた。エルマはごくりとつばを飲み込んで、「その動きとは、どういう……?」と尋ねる。
フシルは悲しげに目を伏せて言った。
「王位継承権が、ラシェル殿下とリヒター王子のどちらにあるかの争いで、現在王城内は二つに分かれているのです」