Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
リヒターがカルを王城へ引き入れた理由がよくわかった。
リヒターからすればカルは出会って間もない、信用できるかわからない人物であるはずだ。
それを、カルがリヒターに頼み込んだとはいえ、やすやすと王城に入れたのは、すこしでもルドリアの――ひいてはラシェルの味方を作っておきたかったのだろう。
「わかった。教えてくれてありがとう、フシル。身の回りには十分気をつけることにする。わたしも腕には自信があるから、そう簡単にやられるつもりはない」
エルマが言うと、フシルはほっとしたように笑った。
「それを聞いて安心しました。今日からカルがエルマ様付きの近衛になります。やつにもこのことは伝えてありますので」
「それはなにより心強いな」
言って、エルマはからからと笑った。
自分とカルが揃っていればこれまでも、これからも、怖いものなどないと思った。
「それから、エルマ様。お伝えしたいことがもう一つ」
「ん?」
エルマが促すと、フシルは「失礼」とことわってから、エルマの髪を一房手に取った。
「わたしやあなたの持つこの緑の髪は、ヴェルフェリア大陸には存在しない髪色なのです」
エルマは目を見開いた。「では、どこに存在するんだ?」
「このヴェルフィ・エンデの、はるか東。海を渡った先にある、ウィオン帝国をご存知ですか?」
知っているもなにも、十日ほど前にリヒターとその話をした。エルマとカルの名前がその国の言葉に由来すると。
エルマは黙って頷いた。