Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「べつに、単純なことだ。俺もメオラもラグも、エルマに恩があるんだよ」
「と、いうと?」
「俺は幼い頃に奴隷商に売られて、八歳の頃に逃げ出したところをエルマに助けられた。おれを連れて奴隷商から逃げて、一族に引き入れてくれた」
「……メオラとラグは? たしか、あの二人は兄妹だったよね」
「ああ。あいつらはたしか、故郷で一族が迫害されて、ヴェルフェリアに逃れてきたんだったかな。で、行き倒れてたところをエルマに拾われた」
「へえ」
リヒターは今エルマが居るであろうフシルの部屋を見上げて、ため息をついた。
「みんな大変な過去があるんだね」
「おうよ。城育ちの坊っちゃんにはわからないだろうけどな」
「うーん、返す言葉もないな。……でも僕にだって、それくらい誰かを大切に思う気持ちはわかるよ」
リヒターが遠い目をして言う。カルはにやにやして、「それ、誰のことだよ」と尋ねた。
そんなカルにリヒターは苦笑する。
「君、たぶん僕に思い人がいるとかそういうことを想像しているんだろうけどね、ぜんぜんそんな浮いた話じゃないよ。僕が大事に思っているって言うのは、兄さんのこと」
そう言うと、カルはあからさまに呆れた顔をした。