Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
気がつくと、振り返ってラシェルを睨みつけていた。
その顔をひっぱたいてしまいたくなるのを、ぐっと堪えて、メオラは震える声で言った。
「どうして、あなたがそんなこと訊くの。エルマとわたしを無理にここへ連れてきたのはあなたでしょう! どうしてあなたがそんなこと訊くのよ!」
ラシェルは答えず、ただ驚いたような顔でメオラを見ている。
それがメオラの怒りを助長させた。
「帰りたいか、ですって? そんなの当たり前じゃない! わたしもエルマも、望んでこんなところに来たわけじゃ……っ」
その後は言葉にならなかった。
口が開くと言葉ではなく嗚咽が漏れる。
ラシェルに涙を見せたことが悔しくて、メオラは顔をそむけた。
「一つ言っておきたいんだが……」
そう言いながら、ラシェルはメオラのほうへ足を踏みだした。
「おれは、おまえがアルに帰りたいと言うなら帰すつもりだ」
その言葉に、メオラは目を見開いてラシェルを見た。
「え……?」
「エルマはさすがに帰してやれないが、おまえやカルなら帰してやれる。
リヒターやイロなんかは、情報が漏れるのを恐れて反対するだろうが、まあそこは、おれが説得すればいい話だ」
「……あなたは、わたしがその『情報』を口外するとは思わないの?」
「思わないな」
きっぱりと言い切るラシェルに、メオラは訝しげな顔をして「なぜ?」と問う。