Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
すると、ラシェルはおだやかに微笑んで、
「おまえがリヒターに似ているから、かな」
と答えた。
「似てる……?」
「ああ、似てる。おれを見るリヒターの目と、エルマを見るおまえの目が。だからわかる。おまえは絶対にエルマを裏切れないし、エルマを危険にさらすような真似はしない」
なんとなく、ラシェルの言っている意味がわかるような気がした。
この十日、リヒターのラシェルへの態度を見ているとわかる。
リヒターはラシェルのことを、兄としても次の王としても尊敬し、敬愛している。――盲目的なまでに。
それはちょうど、メオラのエルマに対する尊敬と同種のものだ。その感情にどういう名前がつくのか、メオラにはわかる。
崇拝、だ。
リヒターはラシェルを、そしてメオラはエルマをすべての中心において行動している。
だからこそメオラにもわかる。
リヒターは決してラシェルを裏切ることはしないし、ラシェルに害が及ぶようなこともしない。
メオラがエルマに対してそうであるように。
そんなリヒターとずっと共にいたからこそ、ラシェルはメオラの行動原理を見破ることができたのだろう。
「そうですね。あなたのおっしゃるとおり、わたしが例の情報を口外すればエルマに危険が及ぶってわかっているもの。
そんなこと、金を積まれたってしないわ。っていうかそもそも、わたしはエルマをおいてアルに帰るつもりなんて、これっぽっちもないわ」