ラスト・ジョーカー
第一章 この命は誰のもの
1
*第一章 この命は誰のもの 1*
神賀一二六年。
〈裁きの十日間〉からちょうど百年を迎えたこの年の元旦、日本最大のエリア〈ユウナギ〉の住民は、皆あわただしく祭の準備に励んでいた。
祭といっても決して賑やかなものではなく、〈裁きの十日間〉で亡くなった先祖を弔う、鎮魂祭である。
人々は黒い服を着て、町中の電気を消して、広場で歌姫の歌うレクイエムを聞きながら冥福を祈る。
そして祭の終わりには、それぞれ家から持ってきた食糧を一所に集めて、ランプの残り火で燃やして天に送る。
地味な祭ではあるが、準備はそれなりに大変だ。
だが、それも昼の世界のこと。
夜の歓楽街の住人に、そんなことは関係ない。
歓楽街の一角、小さな見世物小屋の中で、異形のエルは今日も客寄せのための歌を歌う。
真冬だというのに、所々すり切れた薄手のワンピースをまとって、だけどエルの声はすこしも震えていなかった。
暗い小屋の中には、珍しい生き物や異形が、一言も声を発さずにじっとうずくまっている。
そんな中、小屋で唯一の小さな採光窓からさしこむネオンの光に照らされて、外の世界に聞こえるように高くはりあげたエルの声は、ひどく場違いなものだった。
歌のつばさのうえにのり
いっしょに行こう恋びとよ
ガンジス河の草原に
ふたりの憩う場所がある
「ねえ」
歌は低い声に遮られた。
「なあに、ローレライ?」
エルは声を落として、囁くように言った。
神賀一二六年。
〈裁きの十日間〉からちょうど百年を迎えたこの年の元旦、日本最大のエリア〈ユウナギ〉の住民は、皆あわただしく祭の準備に励んでいた。
祭といっても決して賑やかなものではなく、〈裁きの十日間〉で亡くなった先祖を弔う、鎮魂祭である。
人々は黒い服を着て、町中の電気を消して、広場で歌姫の歌うレクイエムを聞きながら冥福を祈る。
そして祭の終わりには、それぞれ家から持ってきた食糧を一所に集めて、ランプの残り火で燃やして天に送る。
地味な祭ではあるが、準備はそれなりに大変だ。
だが、それも昼の世界のこと。
夜の歓楽街の住人に、そんなことは関係ない。
歓楽街の一角、小さな見世物小屋の中で、異形のエルは今日も客寄せのための歌を歌う。
真冬だというのに、所々すり切れた薄手のワンピースをまとって、だけどエルの声はすこしも震えていなかった。
暗い小屋の中には、珍しい生き物や異形が、一言も声を発さずにじっとうずくまっている。
そんな中、小屋で唯一の小さな採光窓からさしこむネオンの光に照らされて、外の世界に聞こえるように高くはりあげたエルの声は、ひどく場違いなものだった。
歌のつばさのうえにのり
いっしょに行こう恋びとよ
ガンジス河の草原に
ふたりの憩う場所がある
「ねえ」
歌は低い声に遮られた。
「なあに、ローレライ?」
エルは声を落として、囁くように言った。