ラスト・ジョーカー

*第三章 銀の鈴 7*



 荒い息をつきながらゼンの姿を探すと、すでにアレンが助け起こしていた。


アレンがエルの視線に気づいて、笑顔で手を振る。



「ゼンの旦那、無傷だって。奇跡だよねー」



 その言葉に安堵して、エルは笑みをこぼす。

――気づけばもう激情は収まっていた。



 ゼンが無事とわかれば、エルがすることはゼンに駆け寄ることじゃない。


エルは振り返って、隊商の者たちの方へ歩きだす。


倒れたモウセンゴケの下敷きになった者たちを助けるためだ。



 ざっと見渡したところ、やはり十数名はいるようだ。


だがモウセンゴケはそれほど重たくはないので、死者も重傷者もいないようだった。



 エルはいちばん近いところで倒れている女の元へ駆け寄った。



「大丈夫ですか? 今この茎のけますから」



 安心させるように微笑んで伸ばした手は、しかし横から現れた手に叩かれて引っ込んだ。



「妻に触るな、化け物!」



 エルの手を叩いた中年の男は、汚らわしく恐ろしいものを見るような目でエルを見る。



 倒れている女が「ちょっと、あなた。その子は化け物を倒してくれたのよ」とたしなめるが、男はそれを一蹴した。



「モウセンゴケの群れを一瞬で倒しちまうなんて、こっちのほうがよっぽど化け物だ。あっちへ行け!」



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