ラスト・ジョーカー



 吐き捨てるように言って、男はエルのわきをすり抜けて妻を助け起こす。



 男の言葉を受けて呆然としていたエルは、ふと顔を上げた。


そうして気付いた。


各々散らばって怪我人の手当をしたり、馬たちをなだめたりしている隊商の者たちは、しかし一様に恐怖の目をエルに向けていることに。



(化け物、か……)



 人々の恐怖の表情を見ながら、胸の内で呟く。



(まあ、そうだよね)



 自分の顔に笑みが浮かぶのを、エルはどこか他人事のように感じた。


困ったような笑み。自嘲的な笑み。


そして自分の浮かべるその表情を、ひどく懐かしく感じた。



(そうだ。檻の中にいたときは、あたし、こんなふうな笑い方しかしなかった)



 楽しそうに笑うことなど、一度もなかった。――ゼンに出会うまで。



 ゼンに出会って――ひどい出会いだったけれど、エリアの外に出て、この世界の話を聞いて、アレンと出会って、笑って旅をしていた。


楽しかったのだ。だから忘れていた。


自分が化け物であること。


忌み嫌われる存在であること。




 だから、今、化け物と言われてこんなに悲しい。



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