ラスト・ジョーカー
エルは足に力をこめてその場に留まった。
「どこに行くの? 隊商の仲間に入れてもらうつもりじゃあなかったの?」
ゼンは面倒くさそうな顔でエルのほうへ向き直ると、「やめた」と短く答えた。
「どうして?」と、エルはさらに問う。
するとゼンはすこし迷うようなそぶりを見せて、やがてぼそりと、
「……だってあいつら、おまえにびびってんじゃねえか」
と、髪をわしゃわしゃと掻きながら言った。
エルはハッと息を呑んだ。
そうだ。彼らはエルに恐怖を抱いている。
だから仲間になど入れてくれるはずがない、とゼンは言っているのだ。
(あたしのせいで、ゼンは安全に〈ハナブサ〉に入る手段を失った……)
再び涙がこみ上げそうになって、エルはうつむいた。
すると唐突に、その肩を誰かに軽く、ポン、と叩かれた。
顔を上げて見ると、にこにこ笑ってエルを見下ろすアレンの顔があった。
「違うよ? エルちゃん」
アレンが言う。
「違う? なにが?」
「今、ゼンの旦那の言葉を違う意味に取ったでしょ」