ラスト・ジョーカー



 本心からの言葉だった。

ゼンもアレンも、それがわかったのだろう。


しばらく迷うように黙り込んで、やがてゼンは小さく「わかった」と言うと、エルの手を引いて隊商の野営地に向かって歩き出した。



「隊商に入れてくれるよう頼む。だが、おまえを交渉の材料にしたりはしない」



 歩きながら、ゼンが言う。

どういうことかエルが問うよりも早く、ゼンが「すみません!」と、隊商の一人の男に呼びかけた。



 それはあの、エルを化け物と言い捨てた男だ。


男は「まだいたのか」という顔で胡乱げにエルたちを見ると、「なんだ、坊主」と応じた。



「お話があるんですが、隊商の長はどちらに?」



「長は今忙しい。話ってのはなんだ」



「〈ハナブサ〉までおれたちを隊商に同行させてほしいんです」



 ゼンの答えに男はぎょっと目をむいた。聞き耳を立てていた他の者も、わらわらと周りに集まってくる。



「同行って……、あんたたち三人をかい」



 初老の女がゼンに尋ねた。



「はい」



「あんたら身分証は? 素性の知れない者を置いておくわけにはいかないよ」



 女の言葉に、エルはぎくりと顔をこわばらせる。


そしてそっとゼンの横顔を見上げた。


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