ラスト・ジョーカー



(あたし、身分証なんかないよ。どうするの、ゼン)



 しかしゼンは淡々と「おれも、連れも持っていません」と答えた。それにまた隊商の人々がぎょっと目をむく。


アレンが「おれはあるけど」と進み出るが、それにしても三人中二人が身分証を持っていなくては話にならない。



「だめだだめだ!」



 最初に話しかけた男が呆れ顔で言って、犬でも払うようにしっしっと手を振った。



「素性の知れん、しかも化け物連れの三人を隊商に入れられるわけがねぇ。諦めな」



 男はそう言って作業に戻ろうとする。だが、なおもゼンは食い下がった。



「あなたは長かそれに準じる方ですか?」



「は? 違うが……」



「じゃあ、あなたに決定権はないはずだ。長に会わせてください」



 男の顔が見る間に険しくなっていくのを、エルはひやひやしながら見ていた。



「だめだ。長を呼んできたところで、許可なんかくれねえよ」



「長に話してみなければわからない」



「だめだっつってんだろ! 身内に化け物を引き入れるなんざお断りだ!」



「対価ならある」



 ゼンは言うと、かばんの中をまさぐり始めた。

薄ら笑いを浮かべて、男は鼻で笑う。



< 107 / 260 >

この作品をシェア

pagetop