ラスト・ジョーカー
要するに、姓はなにかと問いたいらしい。
そう言われても困ってしまうエルである。
なにしろエルの最初の記憶である五年前、
エルは自分が「エル」であるという事実以外に、なにも覚えていなかったのだ。
だからただ「わかりません」とだけ答えた。
女は納得のいかないような顔をしたが、
「そう」とだけ言うと、男に構わず小屋を出ていってしまった。
支配人がそれに続く。
一人残された男はエルの檻に歩み寄り、かがんでエルに目線を合わせた。
「私はスメラギという。スメラギ・ローゼフィリアだ」
そう言って、ちらりと戸口を見やる。
「さっき出て行ったのがカルラ・フォード。私の部下だ」
スメラギはエルに向きなおって言う。
「エル、おまえは明日から私の元で引きとることになった。
多少自由は制限されるが、ここほどではない。快適な生活は保証しよう」
「は、…え? なんで」
エルは信じられない思いで、スメラギをまじまじと見返した。
鋭い眼から、感情は読み取れない。